甘いささやきは社長室で
「い、いきなりなにするんですか……」
気の抜けた声で問う私に、桐生社長は近い距離のまま満足げな笑みを浮かべた。
「僕以外にシッポ振った罰」
「シッポ……?」
って、なんのこと?
意味が分からず首を傾げると、エレベーターはポン、と音を立てちょうど12階についたことを知らせる。
「けど前ほど拒まなかったね。もしかして、気持ちよかった?」
「なっ……!」
気持ちよかった?なんて。
どこか図星を突かれた気もして、顔がかぁっと赤くなる。そんな私の反応を見て一層楽しそうに笑うと、桐生社長はまた顔を近付ける。
「ご所望なら、続きもしようか?」
耳もとでボソ、と囁く低い声にますます顔は赤くなる。
そのタイミングで開いたドアに、彼は体を離すと上機嫌に降りていった。
「っ〜……なんなの……」
いきなり、またキスをするなんて。最低、最悪、訳わからない。
そう思うよりも強く、耳の奥にじんじんと低い声が響いている。
ドキドキ、してる。
「……ちょっとは見直したと思ったのに」
真面目な人で、照れ屋な人で、だけど結局こうして心を揺らす人。
あんな軽い男のキスにドキドキしてる。そんな自分も、訳わからない。