あなただけを、愛してる。
「唯子、好きだ。」
抱きしめた彼女の表情は見えなかったが小さく反応した。
きっと、信じられないという感情があふれだしたんだろう。
今腕の中にいる彼女がいとおしくて仕方がない。
「晴…」
初めて呼んでもらえたその名前。
今までいろんな女に名前をよばれてきたけどこんな感情になるのは初めてだった。
たかが名前なのに、温かい気持ちがあふれてくるような。
「唯子、俺は今会社が一番大事なんだ。」
俺が彼女を抱きしめる腕を緩めると彼女は静かに顔を上げた。
「あの会社を大きくするためにいろんな人の人生が犠牲になって、いろんな人が懸命に頑張ってきたことを知ってる。」
彼女の真剣な目が俺に刺さる。
彼女は、どんな思いで俺の話を聞いているのか。
私より会社をとるのか、と俺から離れて行ってしまうんだろうか。
「だから、俺は唯子と堂々と付き合うことができない。」
俺は冷たくそういうことしかできなかった。