Tokyo Dark Side
思い出す。

亮二が『組織』の暗殺者に志願した時の事。

最初は訳の分からない山奥に放り込まれ、鬼のような教官達にしごかれた。

ここは地獄だ、いっそ死んだ方がマシと思え、ここが地獄であればあるほど、今後お前の存在はお前の敵にとって『地獄』そのものとなる。

そう言われ続けながら、拷問のような日々を過ごした。

砂利の上を腹這いで匍匐前進させられ、腕が刃物を防ぐ盾と化すまで、砂利や小石の食い込む痛みも忘れろと強要された。

極限の状態で筋肉が弾けないようにする為、何度も靭帯と筋繊維が切れるまで酷使させられた。

…そんな拷問のような、しかし暗殺者にとってはようやく基礎の訓練が終わる頃、亮二が出会ったのがこの男だった。

本格的に『仕事』の基本を教えてくれたのは彼だった。

『仕事』というのは、標的に深刻なダメージを与えたり、殺害する事。

『仕事』の基本、手に入り易く携帯し易い武器として教えられたのが、刺身包丁だった。

お前にとってこれは料理道具ではない。

心に刻み付けろ、お前が誰かを殺す時、これを使う事になる。

そう言って男は、まだ人を殺した事のない亮二の首筋に刺身包丁を素早く突きつけた。

人を殺す時は首か腹を刺す。

通常の戦闘では首、腹を刺さず、腕や足を刺せ。

『この世界』から永久追放するなら、アキレス腱を切って再起不能にする。

刺す時は躊躇せず、幾多の反復練習の上、無意識に刺せるよう訓練する事。

そして基本の武器に慣れ、得意な武器を選んで徹底的に習得しろと男に言われ、初めて亮二が自分で選んだのが、アイスピックだった…。

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