『忍姫恋絵巻』
「あたしは、桜牙門の名に仕えてたんじゃなくて、桜牙門 在政っていう1人の主に仕えてたの」
桜牙門の家なんかより、あの人自身が大切だった。
あの人が大切にするから、桜牙門の名も守ってきたんだ。
「この世で二度と無い主だと思って仕えてた」
この体に、命に意味があるのだとしたら…。
あたしはきっと、この人の剣に、盾になる為に生まれてきたのだと思うくらいに。
「でも、あたしはそんなあの人を守るには弱すぎて、簡単に守るなんて言った自分を心底悔やんだ!!」
あたしは、溢れだす感情を止められず、泣きそうになりながらも、叫んだ。
「才氷、お前……」
赤は何か言いたげにあたしを見つめた。
「桜牙門の懐刀を授けられた時から、あたしはずっとこの懐刀で、信秋を殺す事だけを夢見て生きてきたの」
敵をうって、あの人の無念を晴らす事が、あたしの生きる意味だった。