『忍姫恋絵巻』
「才氷、まだ話せないと思うから、そのまま聞いてくれ」
そっと、あたしを抱き上げて、歩きながら赤は話し出す。
「お前の桜の想い出の奴って、桜牙門の当主だったんだな」
「…ん」
桜のかんざしの時の話、まだ覚えてたんだ。
さっきも洗いざらい話しちゃったし、もう隠せない。
赤の言葉に、あたしはすぐに頷く。
「特定の主を持たないのは、桜牙門の主を守れなかったからか。でも、お前、家光様には、心を割いてたよな」
家光……。
あたしはきっともう、家光を主だと思ってしまっている。
ただ、あの時の記憶がそれを許さない。
他の誰かにとっては過去になるだろう在政様の事は、あたしにとってはまだ今なんだ。
「なぁ才氷。お前はもう家光様や徳川、そんで俺にとっても、もう無きゃならない存在なんだ」
「……っ」
それは、嬉しい。
でも、でもあたしだけ、あの人を置いて幸せになるわけにはいかないんだ。