『忍姫恋絵巻』
「それで、才氷の話を聞かせてくれるのだろう?」
春日局は、そう言って、家光の隣に腰かける。
「桜牙門の事だな」
「やっぱり、春日局様は知っているような気がしてました」
桜牙門の名前が春日局様から出てきて確信する。
最初に春日局様に会った時、春日局様は…。
『何か、断りたい理由があるように見える』とあたしが影武者を断る理由を知っていたように思えた。
「桜牙門?それは、織田に滅ぼされた西の領地の名ね?それが、才氷の話と関係があるの??」
家光の言葉に、あたしは頷く。
「家光、あたしの話をどうか聞いてください。きっと、面白いモノではないでしょうが、まっすぐにあたしに向き合ってくれるあなたや、赤には、隠し事をしたくないんです」
そう言って、あたしは何から話そうかと、あの日の記憶に想いを馳せる。
そうだ、あの桜舞う春の事。
在政様との出会いから、話そう。