『忍姫恋絵巻』
「えーと、あたしは才氷……」
服部の名前は伏せた。
継ぐ気は無いにしろ、服部は徳川の忍びの家系だし、下手に口外できない。
「才氷か、良い名前だね」
そう言って、在政は何も聞かずに笑った。
え、そこは突っ込まないんだ。
だって、明らかにあたし怪しいし、侵入者なのに。
「なにも…聞かないの?」
「聞いてほしいのかな?」
あたしの問いに、在政は不思議そうに首をかしげた。
「そういうわけじゃないけど……」
あたしはそう言って、在政の隣に腰かける。
「なら、そうだな。才氷は私を殺しに来たの?」
在政の言葉にあたしは目を見開く。
「違う、あたしは昼寝をしていただけ。ここの桜が咲き頃だから」
そう、あたしは毎年こうして、桜牙門の桜を見に来る。
たぶん、日の本一の桜の名所なんだ。