『忍姫恋絵巻』



「ははっ、知っているよ」

「え……?」


在政は、あたしを見て優しく笑う。


「毎年、春になると君は決まってこの桜の木で昼寝をしていたからね」

「え、そんな前からバレてた!?」


てか、あたし気づかなかった!?
視線には敏感なのに。


春の温もりに、気も緩んでたのかも。


「……私にとって、この城で唯一の息抜きはこの桜なんだ」


在政は少し寂しげに、桜を見上げた。


「…………」

あたしは無言でその横顔を見つめる。


当主……だから?   
きっと、そんな顔をするだけの苦労が、在政にはあるんだろうなと思った。




「…………当主…か。あたしは、自由になるんだ。いつか、心の底から信頼出来るような、自分が仕えたい主に仕えるって決めてる」



あたしは空に手をかざした。

空は果てしなく広くて、鳥は自由に羽ばたく。
それすらあたしやこの人には、容易くない。


「私から見ると、君は自由な鳥のようだよ」


不意にその手を握られた。


「なっ!?」


驚いて在政に視線を移す。
すると、在政は柔らかな笑みをあたしに向けた。


「気まぐれに、温かい季節になると、桜の木に止まり、羽を休めて…。そして、春が終わると、どこかへ旅立ってしまう」


在政には、あたしはそう見えてたの?
確かに、あたしは春の桜の季節にしかここへは来ないから…。












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