『忍姫恋絵巻』



『この身を失っても、私はこの懐刀に宿り、才氷と一緒にいよう…』


不意に、在政様の言葉を思い出す。


在政様、あの言葉を、いまは信じてもいいですか?
あなたは、この懐刀に宿っていると。


「あたしには……やらなきゃならない事がある」


桜牙門の民を守ってとあなたは言った。
だからせめて、あたしはそれを、成し遂げなきゃ。



それが、いまのあたしの生きる理由。
あたしを突き動かす理由だ。


「在政様、共に行きましょう…っ!!」

「何!?」


あたしは信秋の横をすり抜けて、森の向こうの、崖へ飛び込んだ。

「死ぬ気か!?くそ、そんなの許さなぬぞー!!」


信秋の狂った声を聞きながら、あたしは着水した。


バシャーンッ!!


水の中で、あたしはゆっくりと息を潜める。


しばらくは、我慢だ。


信秋がこちらをのぞいているはず、死んだことにしたほうが、動きやすい。


あたし、冷静だな……。


今にも、発狂しそうなほど苦しくて、辛いのに、在政様はあたしに民を救うという命令を残した。



だからだ。
最後まで在政様は、優しすぎる。

あたしが苦しまないように、時間をくれた。












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