『忍姫恋絵巻』
そして、そっと川から上がったあたしは、いそいで桜牙門の城へと向かった。
そして、在政様を指示していた家臣達と共に、城を出て、民を逃がす。
「服部様、豪に民を隠しますか?」
家臣の言葉に、あたしは首を横に振る。
「豪はすでに信秋にバレてると思う」
今回は、身内にも謀反を企てた者がいた。
こちらの情報は筒抜けだと考えていい。
「わぁっ、お母さん~」
「足を怪我したのかい、おぶってあげたいけれど、これじゃあ…」
雨のせいで、道が泥濘、訓練をしていない民には辛い道のりだった。
「とりあえず城から離れたはいいけど、どこへ行けば…」
在政様なら、どうした?
あたしには、在政様みたいな先見の明かりはない。
考えなきゃ……。
「服部様、この団体はまずいかもしれません」
すると、桜牙門の参謀をしていた家臣が、あたしに話しかけてきた。
「小次郎殿……」
清田 小次郎は、50歳になる桜牙門の優秀な参謀で、在政様を孫のように可愛がっていた人。
この人は、時々あたしの事も自分の孫のように接してくれた。