『忍姫恋絵巻』


「民と家臣達を分けましょう。そして、皆別々の領地に移住するのです」


「確かに、この団体は目立ちすぎるし、良い案だと思う」


「家臣をその分けた団体に2名ずつ配置しましょう。守り手は少ないですが、前より逃げる早さも上がりましょう」


「うん。ありがとう、小次郎殿。あなたがいて助かった」



あたしだけじゃ、何も思い付かなかっただろうから。


あたしの言葉に、小次郎殿は悲しげに首を横に振った。


「私は、結局在政様を守る事は出来なかったのです。せめて、服部様に託されたあの方の願いを叶えたい」


小次郎殿も、泣いているように思えた。


在政様は、家臣にも民にも愛されていたから。


「それでは、ここから別々に動きましょう」


そして、あたし達は別々に逃げることになった。
あたしは、小次郎殿に頭を下げる。


「どうか、ご無事で」

「服部様も、どうかご無事で。その懐刀を、頼みました」


そうして、あたし達は別々の道を歩き出す。

長い時間をかけて、民を別の領地へ送り届けると、あたしは、服部の里へと帰った。


そして、それから3年間、主はもたずにただ依頼をこなして、帰ってきては、里で修行を積んだ。


信秋を殺す為だけに、この氷術を磨いてきたんだ。


そして、あたしは服部の当主としての名を馳せるほどの忍びへとなった。


あたしと在政様は、まるで冬の氷と春の桜。

重なる事は出来ないはずのに、あたしたちは共に居ることを選んだ。

出会ってしまった事に後悔は無い。
ただ、出会わなければ、こんな悲しい想いは、しなかった。












< 153 / 272 >

この作品をシェア

pagetop