『忍姫恋絵巻』
「これが、あたしの全てです」
そうして話終えると、どっと体が疲れた。
痺れ薬が抜けてないせいもあるんだけど、それ以上に心が疲れていた。
「ふっ…ぐすっ……」
「家光様?」
すると、家光様が泣いている事に気づいた。
涙をぬぐうこともせずに、たはだあたしを見つめて泣いているのだ。
なんで、家光様は無いてるの??
「才氷と、在政様の気持ちを考えたら、とまらなくてっ…」
「あたしと、在政様の気持ち?」
あたしの言葉に、家光は頷き、着物の袖で涙をゴシゴシとぬぐった。
「お互いに、心を一部失ってしまった痛みが、私にまで伝わってきたの」
「あぁ…」
そういう事ね。
そっか、家光はよく人の心を感じとる子だったっけ。
優しくて、人の為に涙を流せる人。
「才氷にとっての主は、在政様ただ一人だったのね。だから、主をもたないんだって、分かった」
家光は少し寂しそうにあたしの手を握る。
「それでもね、私は才氷が傍にいると言ってくれた事、とても嬉しかったの」
それは、確か家光が狙われた時に言った言葉だ。