『忍姫恋絵巻』
「主とか、そういう関係に名前はいらないのよ。才氷が、傍にいてくれて、笑い合える関係でいられたらいいの」
『才氷、私に仕えるとかじゃなくて、一緒に私と桜牙門の桜を守って欲しい』
「っ!!」
まるで、在政様の言葉を聞いているかのようだった。
似てる、本当に。
二人は優しくてまっすぐだ。
ただ違うのは、包み込むような春の桜だった在政様と違って、家光は様々な実りを生み、多くの人の心を惹き付ける秋の菊のようだ。
いつの間にか、家光に巻き込まれるように、笑顔になっているんだ。
「才氷はもう1人じゃない。私は、才氷が苦しんでるなら、出来る事を、なんでもするわ!」
「ありがとうございます、家光。でも、あたしはもう家光に救われています」
前のように笑えるようになったのも、誰かを守れるんだと、自分に自信がもてたのも、全て家光のおかげだ。
「家光の笑顔は、誰の氷の心も、溶かしてしまう」
「才氷の心も?」
「もちろんです」
あたしは、家光に笑顔を返した。
「俺は、あんたの言う桜に、そこまでの重みがあったのを知らなかった」
今度は、赤がポツリと話し出す。
そして、寂しげにあたしを、見つめた。
「簡単に、椿に乗り換えろなんて、ひでー事言ったな、悪い」
そう言って、赤は頭を下げた。
「や、やめてよ、気持ち悪い!」
あたしは冗談ぽく笑ってみせた。
だけど、赤の表情は曇ったままだ。