『忍姫恋絵巻』
「守りたいって言ってくれてありがとう」
あたしは、赤の背中に手を回し、抱きつく。
「才氷……?」
赤は驚いていたが、すぐにあたしを抱き締め返す。
「本当に、嬉しかった」
「当たり前だろ、俺は才氷が好きなんだから」
好き…あたしも、赤が好きだよ。
生きているなかで、誰かを好きになれて良かった。
なのに、騙してごめん。
ポタリと涙が流れた。
「……さよならだよ」
あたしは意識を集中させて、冷気を赤の体に送る。
ヒュゥゥゥッ
「うっ…!?」
赤は膝をつき、必死にあたしを見上げた。
「少し体を麻痺させた。少しのの冷気でさえ、筋肉を硬直させて一時的に動かなくさせる事が出来るの」
あたしは、動けなくなっている赤の頬に手を伸ばした。
「行く…な……」
震える声で、悲しげな瞳であたしを呼び止める赤。
それに、胸が痛んだ。
「あたしはもう……戻り方を知らない」
憎んで憎んで…ここまで来てしまった。
新しい日だまりを見つけても、あたしの心はあの日に捕らわれたまま。
「立ち止まる事は出来なくて、信秋を倒さなきゃ、あたしはずっと……心が死んだままなんだ」
生きた心地がしたのは、赤達と出会ってから。
それまでは、まるで死んでいるように、心が氷ってた。