『忍姫恋絵巻』
「俺…はっ!!才氷と……戦うって…言ってんだよ!!」
「駄目、傷ついてほしくない」
信秋に傷みつけられるところを想像するだけで、あたしはおかしくなってしまうから。
「何でっ……分かんねぇんだ!!」
「うん、ごめん」
ごめんね、分からないわけじゃなくて…。
分かりたくない。
だって、あたしはもう、自分が傷つきたくないんだ。
遠ざけて守るしか、あたしは出来ない。
泣きながら怒る赤に、あたしは弱々しく笑った。
「大好きだった、赤」
もう戻れない。
新しい居場所だった。
でも……。
あたしには在政様のへの忠義を、忘れられない。
「行くなっ……才氷!!」
赤の声を背に、あたしは振り返る事なく部屋を出ていった。
思いでも全て、忘れて置いていければいいのにと思いながら。
大好きな人と離れる痛みだけが、胸に残った。