『忍姫恋絵巻』
徳川を出て数日。
あたしら、かつて桜牙門の城だった織田の領地へと向かっていた。
「………在政様」
ほんの少し前までは、桜牙門へ向かうこの道を嬉しい気持ち一杯で走っていた。
会える、あの人に会える。
そう思って、足も軽く、早くなっていた。
「…懐かしいな」
才氷は目尻が熱くなり、泣かないようにと上を向く。
あたしは、弱くなってしまったのかな。
少し、在政様の事を考えるだけで、胸が苦しくなる。
「泣くのは後、全部終わったその時…」
スタッ
木を使って、高い位置から今や織田の領地になった、桜牙門の地をを見渡す。
ここは、桜以外にも、色とりどりの花が咲いて、美しい場所だったのに…。
「…花をつけてない、可哀相に…」
本来の主を失った領地は荒れ果て、枯れきっていた。
在政様がここの当主だった時、城も民も、桜も、全てが生き生きしてた。
優しい彼が治める土地だから…。
だけど、ここまでの道中、民は疲弊して、活気もない。
織田の民は生気がなかった。
織田信秋が治め初めてから、この有様…。