『忍姫恋絵巻』



姫と言ってもやっぱり歳相応の女の子なんだな…。
あたしと、同い年だけど…。


家光を見ていると、優しい気持ちになった。


あたしには無い、無邪気さが、信用できるから…かな。


「家光、その前に公務はやったのですか?」



あたしがそう言うと、家光は落ち込んだように俯いた。


「えー……」


家光は下唇を突きだして、子供のようにだだをこねる。


「ぷっ、公務の後に遊びましょう」


そう言ってつい笑ってしまう。大奥へ来て、初めて笑った気がする。




「本当!?なら、頑張ってくる!!約束よ才氷!!」


そう言って家光は公務に取り掛かる。


「あっそうだ!」


ふと、家光はあたしを、振り返る。


「どうしました?」


「これからよろしくね、才氷!!」

『これからよろしく、才氷』


家光はそう言って手を出してくる。


「…っ!!よろしくお願いします」


その手を強く握り返す。


一瞬、差し出す手と、家光の笑顔が、あの人に重なった気がした。



こうして、あたしの影武者生活が始まった。





< 18 / 272 >

この作品をシェア

pagetop