『忍姫恋絵巻』
姫と言ってもやっぱり歳相応の女の子なんだな…。
あたしと、同い年だけど…。
家光を見ていると、優しい気持ちになった。
あたしには無い、無邪気さが、信用できるから…かな。
「家光、その前に公務はやったのですか?」
あたしがそう言うと、家光は落ち込んだように俯いた。
「えー……」
家光は下唇を突きだして、子供のようにだだをこねる。
「ぷっ、公務の後に遊びましょう」
そう言ってつい笑ってしまう。大奥へ来て、初めて笑った気がする。
「本当!?なら、頑張ってくる!!約束よ才氷!!」
そう言って家光は公務に取り掛かる。
「あっそうだ!」
ふと、家光はあたしを、振り返る。
「どうしました?」
「これからよろしくね、才氷!!」
『これからよろしく、才氷』
家光はそう言って手を出してくる。
「…っ!!よろしくお願いします」
その手を強く握り返す。
一瞬、差し出す手と、家光の笑顔が、あの人に重なった気がした。
こうして、あたしの影武者生活が始まった。