『忍姫恋絵巻』
「ありがとう、伊津菜さん」
「それは、私の台詞です、才氷様。あなた様は、こうして私たちを救おうとしてくださっているのですから」
伊津菜さんも苦しいだろうに、にっこりと笑顔を浮かべて、皆を励ましてさえいる。
「それにしても……」
空を見上げれば、今にも降りだしそうな雲行き。
雨なんか降ったら、これ以上進むのは無理だ。
「今頃、くの一の皆が里に向かってるはず。あたし達もせめて、雨がしのげる場所で休もう」
「そうですね。ですが、この先、織田の領地と徳川の領地の堺になります。軍の目はさらに厳しくなるはずです。私たちの進む道も、安全かどうか…」
不安げな伊津菜さんに、あたしも頷く。
確かに…石川の里は、徳川と織田の領地の堺、奥まった山の中にある。
さらに、織田軍の目が厳しくなるはず。
これは、先にあたしが偵察しに言った方が良さそうだ。
でも、伊津菜さん達を一人には出来ないし…。
クルックーッ
「!!」
すると、木の枝に、雷鳴がとまった。