『忍姫恋絵巻』
「雷鳴……?」
「あぁ、紹介がまだだったね」
あたしは、首から下げた笛に口をつけた。
ピィィーッ
笛を吹くと、バタバタと雷鳴が羽音を立てて、あたしの腕に止まった。
「あたしの相棒の雷鳴、賢い子だから」
あたしは雷鳴の体を撫でながら、笑みを浮かべる。
「雷鳴は、あたし達の言葉を理解してる、だから、何かあれば雷鳴に言って」
「本当に賢いのですね。かしこまりました、才氷様もお気をつけて」
伊津菜さんは雷鳴をあたしから受け取り、胸に抱き締めた。
「うん。それじゃあ、行ってくる」
バッ!!
「…………っ」
女達を雷鳴に託して、あたしは木上を伝って、これから行く道の安全を確かめる。
森の出口に近づいた途端、ポタッと頬に水滴が当たった。
「っ、雨がっ……」
伊津菜さん達、大丈夫かな……。
心配してた通りになっちゃったな。
そんな事を考えていると、ふいに人の気配を感じた。
「!!」
あたしはすぐに木の影に隠れた。
すぐ下には、どこかへ向かっている最中の織田の軍勢がいる。
この先は……石川の里の方角??
嫌な予感がして、織田の軍勢の声に耳を傾ける。
「こっちか、忍の里は」
「信秋様は、随分と忍びに執着されておる」
「強いモノ好きは相変わらずだな。ほら、なんだったか、桜牙門の忍びも手に入れたがってたしな」
…っ!!
信秋が、石川の忍びを狙ってるんだ!!
大勢の忍が、八雲の里に出入りしたせいで、逆に石川の里が狙われた?