『忍姫恋絵巻』
伊津菜さんが危険だって分かってて戻ったのは、先崎の為だ。きっと、こんな時だからこそ、大切な人の傍にいたかったから。
「才氷様……もう、あなたは…一人ではありませんね…」
「え……?」
どういう意味で伊津菜さんは言ったの?
首をかしげると、伊津菜さんは小さく笑った。
「昔…あなたのように、孤独な目をした……方と出会いました」
「伊津菜……」
伊津菜さんの言葉に、先崎は目を伏せた。
その誰かが、先崎なのだとすぐ分かった。
「人は…孤独になど……なりえません……。だって、この世は…幾万の人と……人とが、寄り添って…1つの星に……生きているのですから…」
「あぁ、昔もそんな言葉を私にかけたな。そう、お前は私を救ってくれた」
先崎は、目に涙を浮かべて、伊津菜さんを見つめている。
先崎にも、何か悲しい事があって、そんな時に傍にいてくれた人が伊津菜さんだったんだ。
なのに……。
伊津菜さんはもう、先崎とは……。
「っ……」
涙が頬を伝って、地面に落ちる。