『忍姫恋絵巻』
「体が朽ち果てても……この心と、魂は……あなたの傍に置いてくださいね」
「!!」
あれ…。
この言葉を、あたしはどこかで聞いたような気がする。
先崎を見つめる伊津菜さんの姿が、桜色の髪のあの人と重なって見えた。
『この身を失っても、私はこの懐刀に宿り、才氷と一緒にいよう…』
あぁ、そうだ。
在政様も、あたしにそう言ってくれた。
でも、今だから分かる。
きっと、残される者が、悲しみに苦しまないように、そう言ってくれたんだって。
「在政様……」
あたしは、握り締めていた懐刀を見つめる。
「伊津菜、私と共にいた事で、辛い目にばかり合わせた。それでも、傍にいてくれるというのか?」
「言った…ではありませんか……。あなたと私は……もう、2人で1つ……。あなたの痛みも……私のモノなのです…」
何て事無いと笑う伊津菜さんを、先崎は強く抱き締めた。
終わりゆく時間を、惜しむように。
「これからも……共に…おります……」
「あぁ……」
先崎は、泣きながら笑った。
そして、ついに伊津菜さんの瞳は、二度と開く事はなかった。