『忍姫恋絵巻』
「伊津菜っ!!」
そこでついに、先崎は声を荒げた。
ただただ抱き締めて泣く姿を、あたし達は何も言えずに見つめる。
「人の死に、そこまで情を移せるとは。無駄な時間よ」
「っ!!」
無駄……?
伊津菜さんの命を、2人の想いを奪ったお前が、それを言うの?
御子柴の一言に、頭の中で何かがキレた。
「それ以上…口を開かないで」
あたしは、冷気を放ちながら、ゆっくりと御子柴を振り返る。
「才氷、落ち着け。心を失うな」
赤が、そんなあたしの肩をつかんで振り向かせる。
そして、あたしの瞳を見つめて言葉を失った。
あたしの瞳は、今狂気に当てられて、光を失っているんだと思う。
それほどまでに、御子柴を殺したい衝動に駆られてる。
「御子柴は、あたしの大切な人をまた…」
あたしに触れる赤の手まで、冷気で冷たくなっていく。
「先崎、ごめん。あたし、また…守れなかった」
「才氷……お前のせいではない。私が、弱かったのだ」
そして、伏せられる先崎の瞳に、また心が痛んだ。
この、痛み以上の苦しみを、今先崎は感じてるんだろう。
「半身を奪われる痛みを、味わえばいい」
「赤、才氷から離れろ!」
五右衛門が、赤の腕を引っ張り、あたしから距離を取らせた。
「まて!才氷をこれ以上あいつらと関わらせたら、戻れなくなる!!」
赤の言葉の意味が分かる。
赤は、あたしが鬼のような狂気を持っている事を知ってる。
五右衛門が赤を離してくれて、助かった。
でなきゃあたし……。
パリパリ……
地面が、空気が、あたしの冷気で凍っていく。