『忍姫恋絵巻』
「逃げられた……?」
その事実に、酷い怒りを覚える。
許せない!!
絶対に、逃がしてなんてやるもんか!!
「すぐに追う」
あたしがその場から離れようとすると、ガバッと後ろから誰かに抱き締められた。
「なっ……離して!!」
「ふざけんな、離すわけねーだろ!!」
あたしの叫びよりも大きな声で叫んだのは、紛れもなく赤だった。
動きを封じるように、赤の腕があたしを捕らえて離さない。
「もう、自分を傷つけるな……」
「え……?」
自分を傷つけるな……?
あたしは、誰かを傷つけてきたけど、それは全部自分の目的の為。
あたしは、それに、傷ついてなんて…。
「お前の戦い方は、いつも自分も一緒に傷つけてんだよ。いいか、これはもうお前だけの戦いじゃない」
赤は、あたしをあやすように、頭を優しく撫でる。
それに、何故だか泣きたくなった。
あれ……。
どうしてだろう、あんなに憎しみで一杯だったのに、赤に触れられると、それが落ち着いてくる。
そうだ、こんな事前にもあった…。
徳川城を、織田の忍びに襲われた時。
倒れた織田の忍を何度も傷つけてたあたしの怒りと憎しみをおさめた、不思議な感覚。