『忍姫恋絵巻』
「才氷」
名前を呼ばれてみて分かる。
やっぱりあたしは、赤の傍にいたい。
「迎えに来てくれてありがとう……」
「え?」
初めて、赤に素直になれた気がした。
本当は、巻き込みたくないと思いながら、やっぱり1人は寂しいって思った。
「来ないで欲しかったはずなのに……本当は、すごく嬉しかった」
頬に、涙が伝っては落ちる。
もう、どんなに頑張っても、止められる気がしない。
「でも、あたしは…あの人の敵をとるまでは、きっと自分の為に生きられない」
むしろ、人を傷つける度に感じるこの痛みが、在政様を守れなかった事への罰のように思っていたから、なおさらだ。
「でも……」
もし叶うなら……。
こんな、血に汚れたあたしでも、なにかを願う事を許してもらえるのなら…。
赤の腕を優しく振りほどいて、赤と真正面に向き合う。
いつの間にか晴れた空の月光が、あたし達を照らした。
「全てが終わったその時は、赤、あたしは……赤の所へ帰りたい」
「っ!!」
赤は驚いたように目を見開く。
「そして、今度は心から、家光に仕えたいよ…」
もう二度と、心から忠義を尽くせる主は現れないと思った。
だけど……出会ってしまった、主として仕えたいと思える人に。