『忍姫恋絵巻』
⑧楔を解き放ち、選びとる道の巻
八雲の里襲撃から数日が経った。
伊津菜さんを里で埋葬し、あたし達はすぐに里を出た。
ここはすでに、織田の領地だから、まずは徳川へと帰還する事になったのだ。
「追っ手か、案外遅かったな」
徳川の領地を目指す途中、あたし達のすぐ近くまで追っ手が来ている事に気づいた五右衛門が声をあげる。
「ここは、二手に別れ、徳川城を目指すのはどうか?」
先崎の提案にあたし達は頷いた。
「確かに、追っ手はざっと数十人。人数ではぶが悪いしね」
「そーだな」
あたしの言葉に、赤があたしの手を掴む。
赤?
な、なんであたしの手を急に掴んで……。
「そーと決まれば、才氷は俺が連れてくわ」
「へ?」
つい間抜けな返事を返すあたしを見て、五右衛門がニヤニヤ笑う。
「へー、道中、羽目外すなよー?」
「なっ、五右衛門!!」
真っ赤になりながら五右衛門を睨むと、五右衛門は以外そうな顔をした。