『忍姫恋絵巻』
「先崎、少しも辛そうな顔しない……」
きっと、その悲しみを押し込めて、今は戦う事を選んだんだ。あの時のあたしと、同じように……。
「先崎のオッサンも、今は一人じゃないからな。俺達だって、守らなきゃいけない八雲の里の奴らもいる」
「守らなきゃいけないモノがあると、人は強くなれるから…だね」
あたしは、それを身をもって知った。
家光、あたしがまた仕えたいと思えた人。
「俺にとっては……お前だけどな」
「え……?」
「なんでもねー」
赤の声を聞き逃してしまった。
赤、今なんて言ったんだろう……。
「って、いつまでこのままなの!?」
忘れかけてたけど、あたし赤に抱き締められたままだった!!
降ろせと言わんばかりに暴れてみる。
「暴れんなって、そろそろだから」
「そろそろ?」
赤の言葉の意味がわからず首をかしげると、近くで滝が流れるような水の音がした。
ザァァァァッ
あ、やだ!
この先道ないし、本当に滝がある!!
「赤、ここ滝……」
「よし、行くぞ!!掴まってろよ!!」
すると、あろう事か赤はその滝に向かって飛び込んだ。
もちろん、あたしを抱き締めたまま。