『忍姫恋絵巻』
「痛い、倍返しする」
あたしは拳を握って、赤ににじり寄った。
「お前が悪い!俺のどこが盗人に見えんだよ?」
言われてみて、赤をまじまじと見つめる。
だらしない着物の着方、焼き鳥の串を加えてへらへらと笑っている赤は……。
「間違いない、盗人がここにいる。すみませーん、お店の方ー??」
「いやいやいや!」
焼き鳥に向かおうとするあたしを、赤は後ろから羽交い締めにした。
「ちょ、離して!」
「これはチャンスだな、このまま回るぞ!」
そう言って赤は、あたしの手を掴み、無理矢理祭りの中を引きずる。
「おー、金魚掬いあるぞー?」
「あ、そう」
「あれ、水飴の細工だな、見て…」
「いい」
赤は懲りずに何かを見つける度に、笑いながら声をかけてくる。
へぇ、赤って、こんな風に笑うんだ。
いつものへらへらした笑顔とは違う。