『忍姫恋絵巻』


「才氷は、綺麗なんだから、もっと可愛い服きて、着飾ればいいのに。まぁ、そのまんまでも俺は好みだけどな」


「っ………」


驚きで言葉が出ない。


急に、何を言い出すの?
あたしを拐ってきた男のくせに、忍のくせに!!


あたしを綺麗だって、女だって言う。


「そんなの、とうに捨てたし…」

「捨てるなって。忍びだって、幸せになっていんだよ。才氷は女なんだし、結婚とかしてさ」


結婚!?
忍びが幸せな結婚なんて出来るわけないじゃん。


赤は、夢見すぎだよ…。


「幸せになるには、血に染まりすぎたんだよ、あたしは」


必要なら、殺す事さえ迷わない。
任務は最優先事項だから。


「汚れすぎて、貰い手なんていない」


血で、罪で、恨みで汚れてるんだ。


「汚れてない人間なんていねーよ」

「え?」


赤は、珍しく真面目な顔であたしを見つめた。


「誰しも、心に欲とかがあって、それを叶える為に、他人を傷つける事もあんだ。それが、ある意味人間らしさだ」


人がたくさんいるはずなのに、不思議と赤の声が耳に入ってくる。


「血に染まっていてもいなくても、直接手を下しても、下さなくても、そう仕向けた奴等も同罪だ。1人だけの汚れじゃない」
 
「この手が、誰かの命を奪ってしまってても?」


考えた事がある。


あたしは、家光と同じ顔をしているのに、性格も生きる世界も、背負う運命と使命も違うって。





















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