『忍姫恋絵巻』
「桜、好きなのか?」
赤は、あたしの手元のかんざしを見て、尋ねてくる。
「これは…好きっていうより、あたしの中で特別な花っていうか…」
うまく言えないけど、あの人を思い出させるから。
でも、そうとは言えなくて、それっきり何も言えなくなる。
「へー、才氷の特別な花ね。男の匂いがするな」
赤はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべて、あたしを見つめた。
「まぁ、あながち間違ってないかもね!あの、これ買います」
「どうも!毎度あり!」
ムカついたので、あたしはそう言って、かんざしを買った。
そんなあたしを、赤は驚いたように見つめている。
「ま、まじかよ?」
赤は少し動揺したようにあたしの手を引いた。
少しだけ、赤との距離が近くなる。