『忍姫恋絵巻』
「桜牙門 在政」
「っ!!」
どうして……。
目の前の忍びが言ったのは、あの人の名前だった。
桜牙門の当主、桜牙門 在政…。
あの時19歳だった彼に、あたしは仕えていた。
この世でたった一人と決めた主。
そして、救うことが出来なかった主。
「生きていたんだな、服部 才氷」
忍びは、ニヤリと笑った。
「お前……という事は、織田の??」
かつて、滅んだと言われた織田家は、裏の舞台で暗躍に存続し、力を蓄えていた。
そして、織田家当主、織田 信秋は、在政様を殺した、人間。その織田の忍びが、今度は徳川を!?
「信秋様は、さぞ喜んでおられたぞ」
「喜ぶ……?」
「お前が生きていた事にな」
何を、言ってるの??
あたしが生きていて、信秋が喜ぶ理由が分からない。