『忍姫恋絵巻』
「お前、織田家と何かあったのか?」
抱き締められながら、赤はあたしに尋ねる。
話して…いいの??
違う、あたしは、ちゃんと話せるのかな。
まだ、こんなに過去に囚われてる。
まだ、何も受け止められてなくて、整理も出来てない。
「っ……話せない」
そう言うのが精一杯だった。
「っ!そんなに泣くほどの事だったのか?」
泣いてるのか、あたし。
そっか、胸の痛みが強すぎて、それすら気づかなかった。
「……桜のかんざし」
「かんざしって……あの、男との想いでがあるとかって言ってた…?」
あたしは、コクリと頷く。
「あの人は、あたしの主だった」
「っ!!」
桜牙門 在政(さくらがもん ありまさ)。
19歳という若さで、桜牙門の当主だった彼と出会ったのは、あたしが14歳だった時。
桜吹雪くあの春の日、在政様と出会った日の事は、昨日のように思い出せる。
「桜の精なんじゃないかって思うくらい、桜の似合う人で、あたしはあの人に出会ってから、桜が好きになったの」
あたしにとって特別な主。
あの人を思わせる桜の花は、あたしにとっては特別な花。