『忍姫恋絵巻』
「……まだ、傍にいてくれるの?」
離れてほしくない。
まだ、一人になりたくない。
赤の背中の温かさを感じながら尋ねる。
「いてやるよ、才氷の傍に」
あたしは頬に流れる涙も拭かずに、そっと目をつぶる。
赤の温もりと、静かに吹く風だけを感じた。
良かった……。
赤の温もりは、あたしをここに繋ぎ止めてくれる。
また、鬼になる事も、無力さに孤独になることもきっと無い。
「…ありがとう、赤」
目を閉じたまま、そう言った。
赤がいなかったら、あたしは家光の所へは帰れなかった。憎しみに身を任せて、織田を追ったと思う。
帰るって約束も、果たせなかった。
「………素直だな…」
そう言って赤は笑う。
そんな風に冗談を言ってくれるから、心が軽くなった。
あたしは自分の手を見つめる。
傷ついた手、自分以外の血がついた手、沢山の人間を殺めた手。
大切な物を守れなかった、弱い手だ。
「………っぅ……ふっ…」
あぁ、やばい。
また、泣けてきた……。
でもいいや、背中合わせだから、赤にも見られない。
また涙が溢れて、呼吸がしずらい。
何の為の力なんだろう…。
あたしは、全然強くなんかなってない。
弱いままだよ……。