『忍姫恋絵巻』
「才氷」
グイッ
ふいに、腕を引かれて、急に体が後ろに倒れこんだ。
背中の支えを失ったんだと気づいたら、視界いっぱいに空が見える。
青く澄んだ綺麗な空。
その空が、急に陰る。
「…………」
無言であたしを見つめる、赤の顔が間近にあった。
「赤……?」
「お前も女だろ」
赤はあたしの涙を親指で拭った。
「なら隠すな」
赤の顔が近づいてくる。
あたしはただそれを、静かな気持ちで見つめていた。
いつもなら、「ふざけるな」って振り払ってた。
だけど、今は…。
「泣いていい、俺はお前が泣いてたって、弱いなんて思わないから」
赤はあたしの唇に触れる寸前で、止まる。
そして、愛しそうに、親指でそれに触れた。
「あたしは……女だけど、その前に忍だよ…」
あたしは目をつぶって、思い返す。
「主を守り…戦う。主の矛であり盾だって思ってる…」
自分に言い聞かすように呟く。
「でも………時々…。守れなかったあの人を思い出すの。胸が痛くて、壊れそう……」
最後は涙に邪魔されて、声が震えた。
「………大丈夫だ、俺もいる。今度は1人じゃないだろ?家光様は必ず守るし、俺達なら出来る」
赤は安心させるように笑い、あたしの髪を優しく撫でた。