『忍姫恋絵巻』
ここから先は、あたしの指名した男以外入れない場所になる。
そして、あたしが指名するのは、もちろん…。
「露草はいますか?」
あたしの呼びかけに、一人の男が立ち上がった。
「私です、上様」
優雅に膝まつき、あたしの手を握った。
気持ち悪い!!
けど、我慢我慢、まだ氷らしちゃだめ!
そう、自分に言い聞かせて、必死に笑顔を取り繕う。
「では、参りましょう。露草」
「はい、喜んで」
露草はニコリと笑いあたしの後をついてくる。
あれ……?
こいつ、足音を消してる??
普通の人なら足のする音は隠せないのに、露草はその音一つさせずに歩いてる。
まさか、ただの変態じゃないかも。
『城内も安心できないな』
春日局の言っていた事を思い出す。
まさか、織田の息がかかってる??
だとしたら、結構前から潜入してたってことだ。
こんな仕事、忍びくらいしかしない。
露草は忍び??
襖の向こうへ行く瞬間、あたしは赤に視線を送る。
(控えてて)
中には入れないけど、天井裏でも何でも良い。
近くにいてくれれば、すぐに動ける。
そういう意味を込めて視線を送る。
赤はすぐに頷いた。