『忍姫恋絵巻』



部屋に入ると、すぐに露草がお茶を立て始める。
あたしは、それを見つめながら相手の動きを鋭く観察した。



どこで、ボロを出すか……。
いや、あたしから誘導する?


とにかく、正体ははっきりさせたい。


「どうぞ」



優雅に頭を下げ、お茶を差し出してくる。


「えぇ、頂きます」

茶器を手にした瞬間、一瞬、毒の臭いが鼻をついた。

「………………」


酒をじっと見つめる。


これは…毒だ。
殺傷度は低いけど、体が麻痺する代物。


って事は、家光を殺さずに手に入れたいって事??


「どうかされました?」

 
露草は、茶器を持って固まるあたしを、笑顔で見つめる。

お茶は、全部飲まなければ、失礼に値する。


それに、どんな手段をとったにせよ、露草は名家の出として徳川の大奥にいる。



それを消したとなると、騒ぎになってしまうから、あたしが毒を飲んで倒れれば、嫌でも露草は大奥にはいられなくなる。


その方法が一番良いか。しょうがない、飲んでも効くまでにはまだ数刻ある。


それまでに、型をつけよう。


「頂きます」


ゴクリ


そう言って一気に飲み干す。
早速、切り込もう、時間がない。


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