『忍姫恋絵巻』
「さて露草」
あたしは露草に笑顔を向ける。
「誰に指示されて、ここにいるの?」
「はは、やっぱり気付いていらしたか。道理で、お茶に口をつけない訳だ」
そう言って露草は立ち上がる。
「露草って名前も、仮の名前でしょ」
「そういうあなたも、偽者ですね」
ここは徳川の城。
それなのに、こんなに平然としてられるのは、自分の力に自信があるからだ。
あたしはすぐに懐刀を抜き、構えた。
露草は扇形をバサッと広げる。
「私は…石川五右衛門だ」
五右衛門はセンスをひとふりした。
その瞬間、ブアァァッっと、突風が吹き荒れた。
「っ!?」
ドガアァァァン!!
そして、物凄い勢いであたしは壁に衝突する。
「痛っ!!」
一瞬、息ができなくなった。
肋骨、何本かやられたかな??
扇を構える石川五右衛門を見ると、先ほどの着物姿ではなく、忍び装束を着て、長い金髪を一つに束ねた男の姿に変わっていた。
「まづいな……」
石川五右衛門は、服部、霧隠に続く優秀な忍の一族。
石川五右衛門は、どこにも属さないと聞いていたけど…。
「一筋縄じゃいかないかも……」
あたしは懐刀を構え、五右衛門に斬りかかった。