【短編】春になったら
「はい。これ欲しかったんだろ?」
その言葉と同時に、わたしの手の中に、薄ピンクの花びらが納められた。
「あ、さくら」
「えっ?」
後ろにいたのは、とても背の高い男の人だった。
指定のブレザーを着ているところを見ると、ここの生徒らしい。
「いえ、ずっと取れなかったので…」
「あ、そっちか」
「え?」
「俺、名字がサクラだからさ。
あ…俺、三年の佐倉幹雄。
きみは?」
「わ、わたし、一年の宮野春綺って言います」
「春綺ちゃんか。よろしくね」
佐倉先輩はそう言うと、校舎へ入っていった。
わたしは、ぼーっと佐倉先輩の背中を眺めていた。
「ちょっとちょっと!!
今の人凄いイケメンじゃんか!!
何年?年上だよねっ?」
優花に激しく肩を揺さ振られ、わたしは我に返った。
「…あ…さ、三年だって」
「へぇー、かっこよかったねー!!」
優花は一人盛り上がっていた。
わたしは、手の中にちょこんと乗っかった、小さな花びらを見つめた。
佐倉…幹雄先輩…か。
高校生活と一緒に
小さな恋が
スタートしちゃったかも。