【短編集】母親観察論
蚊
はじめに言っておくが、母はものすごく目が悪い。
小2の時点で眼鏡なしじゃ階段を歩けなかったほどだ。
さて、私がまだ父と母と川の字で寝ていた頃の話。
当時私は暗闇が恐かったため、豆電球をつけて横になっていた。
突如耳元に響いた、少し高めの不愉快な音。
―――あ、蚊だ。
皮膚が弱かった私は、蚊にさされるだけで皮膚科行きだったため、
すぐさま母に「蚊がいる」と訴えかけた。
すると母、目を一瞬カッと見開く。
(母はカエルやフクロウと呼ばれるほど目が大きい)
そしてゆっくり瞳を閉じ、一言。
「大丈夫。この蚊、刺さないから。」
「は?なんで?」
「だって、今の蚊雄だもの。」
「だからなんで?」
「今の蚊、口の周りに毛が生えてたから。」
な ぜ 見 え る ・ ・ ・ ! !
その日、確かに私は刺されなかった。
母、おそるべし。