全てをくれたあなたに
だんだんと近づいてくる男。
薄暗くても顔が見えるほどに近づく。
その見えた顔に、私は息を飲んだ。
この人、知ってる。
はっきりとは思い出せないが、直感的に脳が知っている、と判断した。
息がうまくできず、視界が白く霞む。
世界が真っ白になった瞬間、ストン、と私は暗闇へと落とされた。
何も見えず、上も下も分からない。
宛もなく歩き続けても道標になりそうな光も無い。
突然、体がぐらぐらと揺れ出した。
自分で揺れるはずもないので何かが私の体を揺すっているのだろう。
ぺち、と頬に何かが当たる。
反射的に目をつぶって再び開けると、遠くに小さな光が現れていた。
引き寄せられるようにその光へと進む。