全てをくれたあなたに

「道端で倒れた所をそこに座ってるのが連れてきたのよ?
初対面ってわけでもなさそうだしおまけに子猫まで連れてきちゃって。」



少し苦笑いをしながらも椅子に座る男を指さす女性。



漆黒の髪と瞳を持つその人は真っ直ぐに私を見つめていた。



「それと私は榊凛(さかき りん)っていうの。凛で構わないわ。
それでそこにいるのが榊龍二(さかき りゅうじ)。私の弟よ。
あなたの名前も聞いていいかしら?」



名前。



凛の質問にどう答えればいいのかわからなかった。




私は自分の名前を覚えていない上に、[人形]と呼ばれていた私。




『え、と』


「ごめんね、困らせるつもりはなかったの。
言いたくなければ無理にとは言わないわ。」



揺れる瞳を見て、凛が申し訳なさそうに謝る。
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