全てをくれたあなたに
「今日も例の組の偵察に行く。
すぐに行けるよう車を手配してくれ。」
「承知。」
銀司はそう言うと足音もなく去って行った。
俺は部屋に入ると制服からラフな格好へと着替え、携帯だけ持って玄関に向かった。
「若、準備は整っております。」
既に待っていた銀司と手配していた車に乗りこみ、例の組の偵察に出掛けた。
しばらく車を走らせ、目的地まで3つほど過度を曲がるところで車を止める。
「ここでいい。見つかると面倒だからな。
銀司、行くぞ。」
『はい。』
辺りを警戒しながら慎重に進み、1本の人気の無い道路に出た。
目の前の建物からは人が働く音が聞こえてくる。
しかし場所によっては女の悲鳴、男の怒鳴り声、女の高らかな笑い声、そしてバキ、やボコ、と言った異様な物音が聞こえる。
『銀司。』
「はい、やはりそのようですね。
ここは一刻も早く潰しておくべきです。」
そして道路に戻り、帰ろうとすると、先程来た方とは逆の方からガチャンと鉄の音が聞こえた。
『待て銀次、ここで待っていろ。』
俺はそれだけ言うと銀次の返事を待たずその方向へと足を進めた。
目の端に銀次が珍しく慌てる姿が見えるが、顔を向けずに手で制す。