無垢なメイドはクールな彼に溺愛される

 自分でも制御できないほどに動揺している理由は、恋患いです……ともいえず、

「いえ 本当に大丈夫です」

 と、鈴木は姿勢を正した。



 とにかく今日は定時で帰って、西園寺の主治医に見てもらうようにと言われながら、

 料亭に到着する頃には少し落ち着いてきたようで、一見いつものと変わらない鈴木になっていた。



「彼はちょっと疲れてるんだ」

 と、洸が言ってくれたお蔭で遠慮なくぼんやりと箸を進めていたが、気になる話が耳に入ってきた。


 蘭々と洸が話をしている横で、

 氷室仁が桐谷遥人に


「青木にいってる崎田が、

 勤務先を変えたいって言ってきたんだ」 と、言った。



「? なにかあった?」


 桐谷遥人は青木家の令嬢真優の婚約者である。

 仁を通して警備員を青木家におくようにしたのは遥人だった。



「美人なメイドがいるだろう?

 崎田が彼女に結婚を申し込みたいんだそうだ」
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