無垢なメイドはクールな彼に溺愛される
先日のこと。心配して常務が呼んだ西園寺家の主治医に『心に受けた傷は、いつ直りますか』と真面目に聞いた。
主治医は言葉の意味を考えるように少し間を置くと、うっすらと微笑んで答えた。
『どんな傷でも、治る時は徐々に治ったのではありませんか?
と、シェークスピアの言葉にありますが、その通りではないでしょうか』
そんなことを思い返しながらぼんやりと過ごし、空が陰り始めた頃になってようやく鈴木は外に出た。
行き先はユキと会ったホテルカリーナのバー『Ciel』
途中美しい夕焼けが目についた。
ビルに映る赤い夕焼けを自分の心と重ねあわせ、
ユキも見ているだろうかとふと思い、
信号待ちで立ち止まった交差点では、いつかユキと偶然すれ違った時を思い出して辺りを見渡した。
ジュエリーショップを見ればあのネックレスが安すぎたのだろうかとも不安になり、遂には仕事をも恨んだ。
何もかもがもはや重症の域だ。