無垢なメイドはクールな彼に溺愛される
人のいない会議室に入った真優は早速ユキに電話をかけた。
『はい お嬢さま?』
「もしもしユキ? あの人はいい人だよ
みんな生徒会長のことは信頼している
心配ないよっ」
『……お嬢さま』
「蘭々さんはね、今ずっとパントムに宿泊しているんだって
あの日 上のクラブラウンジに洸さんとお客さんが待っていたんだってよ」
『…… そうですか』
ユキの声が震えて小さくなってきて、真優の喉の奥が締め付けられたが、なんとかしてユキを元気つけて笑ってほしかった。
「ねぇユキ 知ってる?
生徒会長は一つだけコンプレックスがあるんだって」
『コンプレックス ですか?』
「うん、なんでも生徒会長の実家はね 田舎らしいんだけど
その地域のほとんどの家が鈴木って言うんだって
まあ 実際なんかしかみんな親戚だったりするらしいんだけどね
その名字、日本で二番目に多い名字なのがコンプレックスらしいよ」
『ええ?? そんなこと?
クスッ』
「それを知っているから、余計みんな今でも生徒会長とか呼んでるらしい」
『ほんとうですか クスクス』
「本当だってよ! 結婚したら名字を変えるのが念願らしいよ
この前ね、遥人にそう言ってたんだって」
次第に明るくなっていくユキの声を聞きながら、真優はホッと胸を撫で下ろした。
「ユキ! 幸せになろうよっ!」
『―― お嬢さま……』
「やだよ ユキが泣くのなんか
見たくないよ……」
『……お嬢さま』
「ごめん…… 泣いたりして」
結局は電話を握り締めて真優もユキも泣いていた。
会議室の入り口に立ち、中にいる真優を静かに見守っていた遥人は
――やれやれ とため息をつきながら、洸にメールを送った。
『洸、生徒会長とユキ 応援してあげて』