無垢なメイドはクールな彼に溺愛される

――いや違う…


 青木家の令嬢真優と桐谷家の御曹司遥人という理想的な組み合わせの二人を心から祝福することはあっても、歪んだ感情を抱いたことはない。

 あるとすれば、取り残されてゆくような寂しさだ。


 でも、今、心に重く沈むこの感情は、寂しさだけではない。



―― それなら何だろう?




 夜景を見つめながらカクテルをまたひと口飲んで、次に頭に浮かんだのは――



 木村くん……?

 そして、木村の顔が頭に浮かんだと同時に、心に重く沈んでいたものが一気にこみ上げた。



 それは、

  惨めだ、という耐えられない思いだ。
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