籠姫奇譚
蝶の章
しとしと、屋根に雨が当たる音がする。
このところ、雨ばかり降っている。春雨もこう長くては気が滅入るというものだ。
天道寺家に貰われてから、もう二月経つ。
遙は慣れないことの多い私に優しくしてくれた。
勿体無いくらいの暮らし。
蝶子は篭女楼の外に出た事がないから何も知らなかったが、聞けば遙はここらで名の知れた絵師らしい。
……遙の絵を見た事はない。
彼は屋敷の中に専用の仕事場を持っており、いつも何時間もそこに篭って絵を描いている。
此処に来た時に、遙から「絶対に入らないように」と釘を刺されているため、足を踏み入れたことはない。
蝶子にとっての遙は、絶対だ。
そして今日も、遙は仕事場に篭っている。