籠姫奇譚
特にすることもなく、退屈だ。
雨音がいやに大きく聞こえてくる。
こんなとき、不意に思う。
身請けされてから、一度も彼に抱かれたことがない。
理由は、此処に来た最初の日に本人から聞いていた。
「僕は君を夜伽の相手にする為に身請けしたんじゃない。……絵のモデルとして、君を迎えたんだ」
何度か遙は蝶子をモデルに絵を描いていたが、けしてその絵を見せてはくれなかった。
……きっと、完成品以外は見せたくないのだろう。
「……汚らわしい」
背後からの嫌な視線と、蔑むような言葉に、蝶子は息を飲んだ。
女の、嫉妬にも似た罵声。
幾度となく廓で聞いてきた、あの声。
「……なにか仰いましたか」
振り向けば、若い使用人の女。
遙に家族は居らず、何人かの使用人を雇って暮らしている。
彼女もその一人だろう。