籠姫奇譚
遙は特に気にする様子もなく、瑪瑙に問う。
「そうそう。また挿絵の件で──…」
それから瑪瑙と遙は長いこと話し込んでいた。
不思議と、遙は瑪瑙と居る時だけはいつもと違う笑顔を見せた。
心の底から、会話を楽しんでいるような。
「じゃあ遙、また来るよ」
「──うん」
「またね、蝶子ちゃん」
夕刻になって、瑪瑙はきらきらと笑顔を振り撒きながら帰っていった。
「──前に言ってた日本茶しか飲まない友人って、彼なんだ」
遙が、空になったティーカップに淋しげに触れる。
「お優しい方ですね」
「……うん、すごく。でも、瑪瑙のこと好きになっちゃ駄目だよ」
遙の声が、一瞬だけ冷たく感じられた。
冷たい、というより感情を感じないと言った方が正しいだろうか。