籠姫奇譚
そして、蝶子の近くにあった大きめの絵に被せてある布を、勢いよく剥ぐ。
蝶子は絶句した。
その絵は、赤がよく映えた美しい絵で、モデルは女性。
でも、表情は哀しげで、憂いを漂わせる。
「ここにある絵は全部、彼女達の血で描いてあるんだ。綺麗だろう?人はいつか老いて醜くなるけれど、彼女達はこの絵の中で永遠に美しくいられる」
この部屋一面のむせかえる鉄の匂いに、吐き気がした。
そして、何枚もの絵画たち。
その全てが、血で描かれたものだろう。
「蝶子も女将に言われただろう?」
「……え?」
「お前は幸せな方だって」
蝶子は目を見開いた。
信じられなくて。
信じたくなくて。
「お前は完璧だよ。今までの女達とは違う。でもね、一つ足りないものがある」
その言葉に唾を飲む。
ごくり、と喉が音を立てた。
「服従、だよ」
ふいに、彼は寂しそうな目をした。
あの時の瑪瑙と同じ目。