瑠璃色の姫君
それに、この子はセイラのパン屋で仕事があるのではなかったか?
セイラのとこの子を勝手に連れ出すなんて出来ないし、したくもない。
「あ、言っておくけどセイラのお姉ちゃんにはちゃんと許可を得ているから安心してよ」
「は?」
僕の考えを見透かしたようにふふん、と自慢気に言う少年。
「え、嘘。…でも止められただろ?」
「ヨユーで説得成功だよ」
なんだこいつ。
朗らかに見えて頭が堅いセイラを説得出来るなんて、口が達者なのか?
ブイッ! とピースサインを俺に向ける少年をどうしたらいいのかわからなくなってきて考え込む僕。
「王子様に追い返されると路頭に迷うなぁ」
そんな僕に漬け込もうと思ったのか、ボソッとピースサインを下ろして言う少年。
路頭に迷う、となると僕と一緒に来た方が安全じゃ…………ハッ!
僕は、自分の頬をペチペチ叩いた。
いかんいかん、惑わされちゃダメだ!
「ねぇ、バベル様。連れてってよ」
ダメ押しのように甘えた声を出す少年に僕はわざと声を大きくした。
「ダメだ。付いてくるな!」
「嫌だ!連れてって!」
ここまでいっても引かない異様に気が強い少年の瞳を見つめる。
その瞳は、先ほどの旅に対する憧れのものとは違った。
しばらくそのまま少年とにらめっこをした。
少年は、僕の目を離さず真剣に見つめて来た。
だから、想いの強さを感じて、ついに心が緩んだ。
…………チッ、僕の負けか。
揺るぎない瞳に魅せられた僕は、渋々言った。
「……仕方ないな」